私の家は、「渋谷から新しい文化を発信する場所にしたい」という構想で6年前から動いていた
更新日:2020年11月12日
自分の「家」、建物、その土地はどんな場所なのか。普段そんなこと考えないけれど、
私がここに入りたいと思った一つの理由が、この建物「渋谷キャスト」の成り立ちだった。
渋谷キャストにはCiftという、なんだか説明がわかりにくいけど拡張家族をコンセプトとしたコミュニティが1フロアをジャックして住んでいた
2年半前、初めてCiftというコミュニティを訪れた時、以下のような説明を受けた。
「19部屋、40人、100業種のクリエイターたちが住んでいる。共に働き、共に暮らす。みんなそれぞれがどこかの部屋に紐づいていて、そうして家を、自分たちの住む場所をよりよくしようという思いが生まれる」。

2018年5月11日、初めてCastに来て、もしかして住むかも...と期待でいっぱいだった誕生日にとった写真が携帯に残っていた。
「もともとは東急のコンサルタントをしていたCiftのファウンダー、藤代健介が、東急からこの場所をクリエイターたちの住む場所にしたいという要望を受けたことに対し、拡張家族というコンセプトのコミュニティを提案した。そしてそこに自分も住むこととし、400人のクリエイターに声をかけ、40人が住むことを決めた」。
もう誰に聞いたかは忘れてしまった。でも確かにおぼえているのは、そんな話。 (ちなみに藤代健介は、哲学的に、神学的に、時代や心を読んでコンセプトを作り、伝えるような人だ。コンサルタント。多分。肩書きはよくわからない。)
表参道、原宿にも近いこの場所は、クリエイターたちも多い。
「渋谷」が、「チーマー」や「ヤマンバギャル」や「渋谷系」や「アムラー」や「浜崎あゆみ」など、時代を象徴するような流行りを生んでから何年も時が過ぎ、また新たに文化を生む場所となるように、この渋谷キャストは「キャスティングをするように」というコンセプトでテナントを集めたという。
2年半前、私はこれを聞いてすごくワクワクしたのだ。ちょうど時は、このコミュニティ「Cift」の一周年祭だった。全国からメンバーが集まっていた。

渋谷から、クリエイター集団が新しい文化を生み出すんだって!! そして家族として(血縁じゃないけど家族と思えるかという実験もかねて)同じ家を持つことによって、日々の暮らしから生まれる対話や問題解決が、この「渋谷の中心地」というとんでもない場所から...なされるのかどうか。そんなふうにうまく行くもんですかね。斜にかまえつつそれは体感してみたいと思った。
(入居当時の渋谷キャスト。コミュニティメンバー、他の階の方との交流も。)
その"クリエイターコミュニティ"は、大家である大企業とだいぶフランクな立ち位置をとっていた
入居すると、こんな大きなマンションなのにコミュニティメンバーと住宅の管理会社の偉い人が、facebookメッセンジャーでやりとりしている。
さらには、渋谷キャストのイベントなどを総括している偉い人とも、facebookメッセンジャーでやりとりしている...。
月に数回は共有スペースで和気あいあいと、より良い共有スペースの使い方、なんてことを打ち合わせしている。なんて近い距離感なんだろうか。
管理会社が予算を出して、コミュニティメンバーの山倉あゆみちゃんが、新潟から料理家集団を連れてきて、フルコースをみんなでいただく交流ご飯会、なんかが開かれているのである。

(ちなみに山倉あゆみちゃんは、新潟をはじめ、全国の地域づくり、暮らしや食などを繋ぎ、プランニングし、ディレクションし、プロデュースしていく人だ。愛と情熱で人をぐいぐい揺さぶり離さないタイプの人だ。肩書きはよくわからない。)
私は...前の大家に「人を呼びすぎだ、親族を泊めるならまだしも」って言われて半ばおいだされたけど、大家さんとこんな協力体制があるもんなんだ...。
管理会社の上司の東急電鉄の方がが栄転で海外勤務が決まった時はコミュニティメンバーと管理会社でお別れ会もした。

偉い人の名前は東急電鉄株式会社の水口さん。このビル、渋谷キャストができる6年も前から、この場所を作る担当だった人。
コミュニティの初期メンバーと管理会社の方々が、昔話をしていたことを覚えていた私は、
今回、渋谷のクリスマスソングを作りたいことと、自分の住んでいるエリア、自分の家のなりたちも知りたい、とインタビューをお願いした。
「よく覚えてるね」と、水口さんは本当に丁寧に、この場所がもともと東京都の土地である話から教えてくれた。
私の家「渋谷キャスト」のなりたちを紐解いてみた
戦前、働き手が必要だったことから、都心に都営住宅を整備し、地方から移住してもらった。そんな都営住宅も、渋谷が大きくなるにつれてもともとの目的としての役目を追え、
どのような場所にするか、東京都によるコンペが行われ、東急電鉄(水口さんの部署)がこの場所を作ることになった、ということだった。

普通は複合施設を作る時はテナントを募集するけれど、ひとつひとつ「キャスティング」するように声をかけたこと。とても時間のかかることだけれど、だから、クリエイター専用のコラボレーションシェアオフィス"co-lab"が入り、クリエイター集団の拠点として"Cift"(※後述)が入る結果になったこと。

この場所が、ちょうど渋谷から原宿に徒歩で行く中間エリアにあたることや、もともと都営住宅だったり都の土地だったりすることで地域の住人にも貢献できる場所であるべきこと。
そこでできたのがビル前に大きくとってある「広場」。24時間、常時座れる椅子とテーブルがある。何十人も座れるのだ、これが。

「それでも」、と水口さんは言う。 そういう、構想で出来上がった場所なのだ。
もちろん近隣住民は、いつだって公共の公園のように寛ぎにきていい。騒がなければ、ピクニックのようにお酒を持ち込んで飲んでいたっていいのだ。ここで、渋谷キャストに入っている私たちCiftやco-labのクリエイターたちがイベントや展示などの企画を提案する機会もある。
(2019年、渋谷Castのカフェ「Åre(オーレ)」にて1年間、「アートx音楽x美味しいご飯」のコラボ企画をさせていただいたのは今回のShibuya Christmas Carolsプロジェクトのきっかけとなった)
そんな、開発チームのコンセプトがめぐりめぐって、言葉になって伝達され、
筋書き通りに、ただの住人でミュージシャンの私、横沢ローラに届き、
「渋谷のクリスマスソングをボランティアでつくるんだぁぁ」
と、騒いでいるのである。
ちなみに、ボランティアと言っているのは、私が勝手に、自分の作詞作曲と歌唱、企画などの全ては好きにやっているという意味でもある。
そして、デザイン費用、印刷代やミュージシャンへの演奏依頼、レコーディングスタジオとミックスエンジニア代などは渋谷キャストが支援してくれている。
大家と店子(大企業といち住人)の関係だけど、一緒にプロジェクトをやっているような協力体勢
「※」をつけたけれど、「クリエイターのコミュ二ティ」を誘致したい、ということでこのフロアが設計されたのは「当初の話」。Ciftというコミュニティのクリエイターの定義はどちらかというと、誰もがクリエイターとして生きられる、というような感じ。
「クリエイターと言えども、みなさんが想像するような、画家や彫刻家や、インスタレーションみたいなんじゃないんです」という感じで、メンバーにはコンサル、プロデューサー、ディレクター、弁護士、ファシリテーター、プランナー、というような、様々な肩書きが並ぶ。
ようするに、クリエイティブに..、法をつくり、地域をつくり、人生をつくり、コミュニティで生まれる暮らしをつくり、つまり誰もがクリエイター。
ちょっと、高層タワーマンションに住むスノッブなキラキラ集団。と思われるとあれなので、日常の風景動画をいれておく。
いろんな主張をしてくるこのコミュニティだが、管理会社も、渋谷キャストも、この場所を
「クリエイター」たちが試みをする場所、実験や挑戦をする場所として、無茶な提案や未熟な企画だとしてもまず「やってみてごらん」というような姿勢で許容してくれている感じがするのである。
毎月、テナントである我々コミュニティや、co-lab、1FにあるレストランÅre、イベントや広場の運営管理をする「シアターワークショップ」など、渋谷キャストの「キャストたち」が顔をあわせ、ミーティングする場がある。
イベント企画や、最近の動向などを近況報告したり、年間のイベントを提案したり情報共有をする。ひとりのただの住人として、企画があればここで提案したりアドバイスをいただけたりもできる。
大家と店子としての関係は、昔住んでいた三軒茶屋の家ではとても良好だった。すれ違えば気持ちよく挨拶もするし、どこかが壊れたといえば自ら直してくれ、音や友人の来訪にも寛容だった。これはきっと運が良かっただけかもしれないが、この規模の住宅と、複合施設と大企業、というシチュエーションで、自分の行動する範囲で会えるいろんな業種の方々と関わりながら暮らし、一緒に自分たちの場所をより良いものにしようと協力しあえるとは思ってもみなかった。
今年、旅にも出られなくなり、住民票も移し、ずっと居る自分の場所。
シブヤという、なんだかあまり人が住むイメージじゃない街と、この大きな複合施設の中にあるシェアコミュニティと、本来は自分の収入には見合わない自分の部屋が、ホームとして、心のなかにちゃんとおさまりはじめた。

(引っ越した日の2018年の私の部屋。スクランブルストリームが建設中)
半径100mの行動範囲では、名前と顔もお互いわかり、挨拶をする以上に深くお互いのことを知っている、プロジェクトの仲間のような人たちが...ぱっと頭の中に思い描くだけで30人以上は居る。
「挨拶する以上に深く」なってきたのはこの三年のここでの生活の蓄積もあるが、
今回渋谷発のクリスマスソングを作る上で、みなさんにインタビューというか...ヒアリングというか...時に渋谷についての対談になったケースも多いが、そうやってじっくりお話をしたということもある。
これらは、この「シブヤクリスマスキャロル」企画で曲を作るにあたってとても大事で、一番身近な場所にあるストーリーとなった。
8月。こうして私はクリスマスに向け、いろんな人のシブヤを集め始めた。